「三千万なら大学病院の助教授が来る。報酬高すぎ」
 尾鷲市で産婦人科医消滅の危機 …実は中傷が原因…三重・尾鷲

明暗分ける医師集約化
NHK特集 三重県南部混乱にスポット

NHKテレビの夜7時からのニュースはシリーズで地域医療の事情を特集しており、4日夜は7時10分から30分まで、20分番組で「危機に直面・地方都市の産婦人科医療…進む医師の集約化」と題して三重県南部、とりわけ尾鷲市の産婦人科をめぐる混乱にスポットを当て、伊藤允久市長も登場した。

昨年からの流れ追う  伊藤市長「断念しない」

男子アナ
全国で意思不足が進んでいます。特に深刻なのは産婦人科の医師不足です。対策の一つとして医師を地域の拠点病院にまとめる集約化を進めています。集約化というのは複数の病院にいる医師を一つの病院に集めることです。これによって医師一人当たりの負担を減らすことができます。さらに安全で高度な医療を患者に提供しようというものです。
女子アナ
この集約化は医師不足対策の切り札になるのではと期待されています。しかしその一方で集約化による波紋が広がっている地域があります。三重県南部を取材しました。
男子アナ
先月28日午前2時50分、一人の女の子が無事に生まれました
産 婦
安心してお産ができました。おかげで赤ちゃんも元気です。
男子アナ
三重県御浜町の紀南病院です。去年7月集約化によって産婦人科の医師が一人増えて三人体制になりました。医師の人数が増えたことで緊急時の出産や治療に余裕をもって当たることができます。患者により安全な治療を提供できるようになったといいます。
医 師
医者一人一人にできる限界というのがあると思うのです。それはやはり2人より3人の方が限界が大きくなって、やれることも大きくなっていくと、安全な医療をお届けするにはやはり医者が多い、スタッフが多い、そういう病院がやはり要るんじゃないかなと思うんです。
男子アナ
去年、三重県南部で行われた産婦人科医師の集約化です。この地域にある2つの病院にはこれまで産婦人科の医師が2人ずついました。医師を派遣していた三重大学は尾鷲総合病院から医師を引上げて紀南病院に集中させました。地域の医療を充実させるという理由です。集約化によって産婦人科医師がいなくなった尾鷲総合病院です。周りにはお産ができる病院や診療所はありません。この病院ではこれまで年間およそ250件の地域のお産を一手に引受けてきました。地元で子どもを産むことができなくなると不安が広がりました。尾鷲市から産婦人科の医師がいる紀南病院まではおよそ40km、山越えの道一本しかなく、大雨になれば通行止めになります。万が一、妊婦に異変があった場合、医療が受けられないと住民は心配しています。
妊 婦
もう予定日が近いんで、やっぱりいなくなったら…。
母 親
他の病院へ行かねばならない。時間もかかるので。救急車で行くといっても相当かかるし、峠もある、こわいですよね。赤ちゃんにも負担がかかるし不安ですよね、毎日毎日…。産婦人科の存続を求めて署名活動を行っています。
男子アナ
地域に産婦人科を残してほしい。住民の強い願いでした。わずか一ヶ月で6万2千名以上が署名し、産婦人科の医師を派遣するよう大学に求めました。
母 親
私たちは若い方が地元で明日を担う子どもたちを安心して産み育てていただきたいと思い…。
男子アナ
しかし要求は通りませんでした。大学からの医師の派遣がむつかしい(←むずかしい?)と考えた尾鷲市では市長自ら産婦人科医の確保に乗り出しました。
市 長
正直言って愕然としました。産婦人科が無くなるということは本当に道路や橋と同じように日常生活にどうしても必要不可欠なものだと思っています。私はここまできたら尾鷲市独自で探すしかないと…。
男子アナ
医師が居なくなってから2ヶ月後、市長は一人の医師を確保することに成功しました。報酬は1年契約で5520万円、多額の報酬に批判も出ましたが苦渋の決断でした。住民はこれまで通り地元の病院で出産できることになりました。新しく来た医師は一年間で158人の子どもを取り上げました。医師との契約期限が間近に迫った今年7月、契約を更新しようと市長は交渉に出向きました。報酬は年額4800万円を提示しました。
「病院に残ってほしい。この金額で応じてもらえないだろうか」、しかし医師は難色を示しました。「たった一人で働き続け、休みは一年で3日しかなかった。報酬の減額には応じられない。月に2回は休みを確保してほしい」、交渉は一ヵ月半に及びましたが決裂しました。
市 長
やっぱり産婦人科を維持していくということは、この地域の発展の条件の一つだろうと思っています。この尾鷲総合病院にとって診療圏の4万数千人の人たちのために、私は断念すべきではないと…。
男子アナ
尾鷲市では新しい産婦人科の医師を探していますが、今日現在決まっていません。医師不足の打開策として期待されている集約化、その一方で地域の医療にひずみも出ています。
 そこで取材に当たった津支局の小島記者に話を聞きます。
男子アナ
集約化によって医師が増える地域はいいんですけど、いなくなる地域はこれは切実な問題ですね。
小島記者
そうですね。近くの病院でお産したいというのは住民の方の純粋な願いだと思います。一方でお医者さんを派遣する大学側も医師が不足していて派遣できない厳しい状況にあります。このため尾鷲市は独自で医師を確保する道を選びました。
女子アナ
いま現在、尾鷲市の産婦人科はどうなっていますか。
小島記者
8月末で医師との契約が切れたんですけれども、出産する人もいるため、今月いっぱいまで医師が残るということを決めています。尾鷲市では後任について複数の医師と交渉していて、前向きに進んでいるということですけど、現時点では決まっていません。今後も契約は切れるたびにこういうことを繰返していかねばならないという懸念もあります。
男子アナ
医師不足対策として、これからもこうした集約化が進んでいくのですか。
小島記者
国は医師不足の対策として医師の定数を増やすなど対策をとろうとしていますけれども、医師として一人前になるには十年ほどかかるといわれております。それまではとりあえず集約化で対応していかざるをえない面もあると思います。地方の事情を考慮して集約を進めていかないと尾鷲のような混乱が起きていく可能性もあります。
   
引用元:紀勢新聞 10月6日(金)
 
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