「三千万なら大学病院の助教授が来る。報酬高すぎ」
 尾鷲市で産婦人科医消滅の危機 …実は中傷が原因…三重・尾鷲

産婦人科問題は誰の責任か? (上)

尾鷲市泉町 日下部 壽史

  今回の尾鷲総合病院のドタバタ劇にはあきれ返ってしまいました。市長も議会も市民に対する謝罪の言葉がなく、市民のことはそっちのけで、自分たちの責任を相手に押しつけることに躍起になっています。
 地元紙でそのようなやりとりの記事を読むにつけ、「あんたたちは市民のためになることをするために、自分で立候補までして市長や議員になったのではないのか。いいかげんにしろ!」と怒鳴りたくなります。
 何の力もない人が言い争うのならまだしも、やる気になればできるような権力を持っている人間同士が責任をなすりつけ合っているのを見るのは、本当にみっともないとしか言いようがありません。
 市長も市長なら、議員も議員です。もっと大人になったらどうですか?。
 今回の産婦人科問題で「一番困るのは誰か。問題を解決して安心して子どもが産めるようにするためには、何をどのようにしたらよいのか」という議論がなされないで、責任転嫁の議論に終始していて問題が解決するのでしょうか。
 普段は偉そうに他人の批判ばかりしている人間が、実際に問題が起きたときにはそれを解決しようともしないで、自分に責任が来ないように躍起になっています。このように市民不在の議論をする人たちに報酬を払うのは「もったいない」話です。
 今年は市会議員の選挙の年です。私たちの1票が無駄になるような「もったいない」ことをやめて、本当に尾鷲のためになる人に投票するべきです。  では、冷静になって今回の問題をもう一度考えてみたいと思います。  現在、田舎の医療機関や特定の診療科が医師不足で困っているのは全国的な問題でありますが、このような事態を引き起こした張本人は、 医師研修制度の改革や地域格差など医師の偏在を容認してきた「国」です。
 このような問題が起きたときにいつも感じることですが、国は東京だけを、いやそうでないにしても、せいぜい政令指定都市だけを 日本だと思い、それ以外の地域は「金食い虫の道楽息子で、ただのお荷物だ」くらいにしか考えていないように思えます。  官僚の中には田舎出身者も大勢いるのにもかかわらず、高級官僚になったとたんに、地方をばかにするようになってしまいますが、 日本を引っ張っている官僚の意識を、「地方もすべて日本だ」というように変えない限り、地方に日が当たらないと思います。
 まあ、それはそれとして、医師不足の影響をまともに受けた尾鷲市の場合はどうでしょうか。
 昨年のことですが、急に尾鷲総合病院の産婦人科の医師がいなくなることが発表され、困った市民が署名を集めて三重大学病院や 県に陳情したりしましたが、その時の市長の説明では、全国的に産婦人科医師が不足しており、そのため「尾鷲総合病院も産婦人科医師を 常駐させることが難しくなった」ということでした。
 その時、地区内に産婦人科がなく、最も近いところでも新宮や松阪まで車で1時間30分以上もかかり、また病院としても規模の大きい 尾鷲総合病院に産婦人科を置かないで、産婦人科のある新宮市立医療センターまで30分の距離にある紀南病院に産婦人科を置く理由が 分かりませんでした。
 後になって分かりましたが、このころ尾鷲市の執行部は、紀南病院と尾鷲総合病院が争っても尾鷲が負けることはないだろうとたかをくくっていたため、 大学病院に積極的にアタックもせず、産婦人科の教授がこの地域に来たときも、他のまちは一生懸命対応したようですが、尾鷲の場合は、市長が尾鷲にいたにも かかわらず教授に会わないで、院長と事務長だけに対応させたりしたため、尾鷲のやる気が疑われたと聞いてます。
 大学病院との関係があまり良くないのはこの時に始まったのではなく、それ以前から市長はあまり大学病院に行くこともなかったので、尾鷲の印象は 良くなかったようです。
 それを産婦人科がなくなることが決まってから、慌てて市民や議員と一緒に陳情に行ったとしても、まともに相手をしてくれるはずがありません。
 それで困った市長は、大学病院に相談もせずに高額で産婦人科医師を連れてきました。しかも大学病院から派遣してくれるはずの医師に、そのバックアップを してくれるようにお願いしたため、完全に大学病院のプライドを傷つけて怒らせてしまいました。
 そのこともあって常駐ではないにしても、診察のために大学から派遣してくれることになっていた医師も引き揚げられてしまいました。
 通常、「こんなことをしたら相手はどう思うか。傷つけることになるのではないか」などと人の気持ちを考えて行動するのがリーダーですが、 それができない人間が自分のことだけ考えて段取りをするとすべてを壊してしまいます。
 そして、そこから今回のドタバタ劇が始まったのです。
 まず今回の問題は、条例に違反している上に議会に内緒で高額報酬を支払ったことから生じています。
 産婦人科医師が尾鷲に必要なことは皆が分かっているはずですから、報酬についての条例案を議会に提出して正々堂々と議論していれば、 今のような事態にならなかったはずです。
 それを必ず後で分かってくるにもかかわらず、姑息(こそく)にもそれを隠そうとしたため、余計に問題が難しくなったのです。
 今年の3月でしたか、産婦人科医師に高額の報酬を支払うことが分かった時に、まず思ったことは尾鷲総合病院の他の医師はどうだろうか、ということでした。  市長の話では、他の医師については院長から説明してもらい、理解していただいているということでしたが、そのことについては大きな疑問がありました。
 私が聞いた話では、医師の間には相当不満があったように聞いてます。それも当然のことで、医師が不足しているのは他の診療科も同じで、以前も書きましたが 尾鷲で実績もない産婦人科の医師にだけ、なぜ破格の報酬を出すのか、理解してもらえるはずがありません。
 このようなことをしていると総合病院の内部が混乱し、病院運営そのものにまで影響を及ぼす事態になると書いたのですが、執行部どころか議会も 一市民の言うことは無視しました。そして結果として内科医師なども減らされてしまいました。

(下)に続く…。

引用元:南海日日 9月12日(火)
 
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