「三千万なら大学病院の助教授が来る。報酬高すぎ」
 尾鷲市で産婦人科医消滅の危機 …実は中傷が原因…三重・尾鷲

後任の産科医師着任
尾鷲総合病院 来春には2人態勢に

 尾鷲総合病院の産婦人科部長に19日、8月末まで津市で産婦人科医院を開業していた野村浩史医師(50)が着任した。8月末で1年契約の更新がまとまらず、今月末で引き揚げる現在の医師(55)から引き続き、産婦人科が継続される。野村医師は「できれば尾鷲に長く勤務したい。産婦人科のきつい仕事はこれまで20年経験してきたことで、信頼されるよう一生懸命に頑張りたい」と着任の抱負を語った。来年4月には県外の勤務医(65)も着任が内定しており、2人態勢となる。

五嶋博道院長から産婦人科部長の辞令を受ける 野村医師は津市出身。昭和57年三重大医学部卒、同61年同大学院医学研究科博士課程修了。三重大付属病院、紀南病院、山田赤十字病院を経て平成8年に津市内で野村産婦人科医院を開業、今年8月に同医院を閉院。
 野村医師は他の医師と同じ勤務医として着任。病院の給料規定が適用され、年間給料1635万円。これに10月から新設した出産1件につき10万円の分べん業務手当、それに規則の一部改正で増額の部長手当月額35万円、特殊勤務手当などを含め年収約2800万円。産婦人科の医師確保で市一般会計の保険総務費に「5年以上の勤務が見込まれる」として招へい奨励金500万円を創設。一時金として支給した。
 来年4月に着任予定の勤務医は顧問として1年契約の更新となり、年間報酬は3千万円以下を予定。招へい奨励金には該当しない。市長は「少なくとも3年ほどはいてくれるので、来年4月からの2人態勢は数年は大丈夫だと思う」と話している。
 三重大は医師不足から昨年6月で尾鷲総合病院の産婦人科に医師の派遣を取りやめ、7月から紀南病院に統合(3人態勢)した。このため、尾鷲市が独自に津市内で開業していた現在の医師を確保。5520万円の報酬で9月から産婦人科を再開。高額報酬が全国的に注目され、今年8月末の契約更新で市が最終的に5520万円を提示したものの、休暇分の上乗せをめぐって折り合いがつかず決裂した。市は以前から複数の産婦人科医師と接触、現医師との交渉が決裂した直後から野村医師に着任を要請していた。
 野村医師は19日朝、市長が出張で不在のため、五嶋院長から辞令を受け、記者の質問に答えた。

着任の抱負は。
野村医師
とにかく一生懸命に仕事をさせてもらいたい。
尾鷲の産婦人科の大変な状況はよく知っていると思うが。
野村医師
1人でやっている大変な状況は聞いているし、その覚悟は持っている。長く産婦人科医をやってきて大変な仕事の性質から十分に認識しているし、その状況で仕事をしてきた。
妊婦や市民にどんなことを伝えたいか。
野村医師
特に地元の人たちに信頼され、多くの人がこの病院に来てくれればうれしい。それが医師への評価になる。
尾鷲に長く勤務すると考えているのか。
野村医師
そう考えている。応援も受けられると思う。
地域の医師不足をどう思うか。
野村医師
産婦人科に限れば医師不足の状況があり、安全性や医師の生活を考えれば総論では集約化しかないと思う。産婦人科になり手が少ないのはいろんな意味で労働環境が原因だと思う。それが改善されないと医師のなり手は出てこないし、地域によっては尾鷲のような状況がどうしても出てくる。医師不足の産婦人科だけをみれば集約化はやむを得ない選択だと思う。
県立志摩病院も産婦人科医師がいなくなる。それも集約化の流れなのだろうか。
野村医師
どの地域とはわからないが、全体としてみれば今の状況ではそうならざるを得ないと思う。
市長が市独自で医師確保に動いた。そのことに共感しての着任なのか。
野村医師
それがすべてではない。いろんなことを考えて総合的に判断した。
三重大からの応援医師は決まっているのか。
野村医師
現時点できっちりとした予定までには至っていないが、市や病院とともにお願いしている。
三重大からは確約は得ていないが感触はよいということなのか。
野村医師
大学病院も少数の医師で高度医療に取り組んでいるためかなりの激務。どの程度の応援になるのかわからない。
来年4月には2人態勢となる。
野村医師
私もその話は聞いているが、詳しいことまでは知らない。
月2回の休みということだが。
野村医師
休みを取るのが難しいのがこの仕事。産婦人科医として20年以上やってきたので十分に承知している。労働環境の改善は個別の問題ではなく、産婦人科医師全体の改善が求められる。
来年4月まで応援医師がなくても1人でやっていくのか。
野村医師
その覚悟はできている。とのかく地元の人たちにも安心してもらえるよう精いっぱい努力したい。
勤務医としての採用で給与面ではどう思うか。
野村医師
私がどうこう言うことではないが、市も病院も精いっぱい考えてくれたと思っているし、そのことも尾鷲に来る判断の一部となった。
尾鷲の産婦人科が全国的に報道され、その渦中で仕事をすることにプレッシャーはないか。
野村医師
それもあるが、産婦人科に限らずどの医師も仕事は大変だと思う。
市長から着任を要請されたということだが、どういう要請で決意したのか。
野村医師
具体的にこれというのではなく、熱心に要請された。
   
「いい先生に安堵」 五嶋院長辞令交付
五嶋院長は「よく来てくれました」との言葉を添えて野村医師に辞令を交付。「とにかくいい先生が来てくれたことにはほっとしている」と感想を述べ、記者の質問に答えた。
後任の産婦人科医師が着任した今の感想は。
五嶋院長
市民の熱意と地域の支援で野村先生を迎えることができ安堵(あんど)している。総合病院としての医療の質を落とさないことでも非常にうれしい。いい先生が来て5年以上いてくれると思う。病院としても先生の健康面などにきっちり対応しなければならない。先日も三重大の産婦人科教授に、少なくとも月1回の休みが取れるよう応援医師の派遣を要望した。
野村医師も労働環境を考えれば医師の集約化が必要との話だった。尾鷲ではこの1年、1人の医師で苦労してきた。県立志摩病院で産婦人科医師の引き揚げもあり、院長として地域医療をどう考えているのか。
五嶋院長
集約化される地域とされない地域が少しわかってきたと思う。地域全体をみて産婦人科の集約化はやむを得ないと思うが、日本には集約できない不便な地域も多い。すべて集約できない地域の例を尾鷲が示したと思う。都会の周辺では集約も可能だが、地域的に集約できない部分をどう守るのかも課題だ。その線引きは難しいが、集約できない一つの例が尾鷲だと思う。
5年以上は産婦人科の継続が約束されたと考えているのか。
五嶋院長
市の奨励金でも5年以上となっている。市も給与体系で他の医師と同じ条件にしたことは有難いと思っている。
 
   
引用元:南海日日 10月20日(金)
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