「三千万なら大学病院の助教授が来る。報酬高すぎ」
 尾鷲市で産婦人科医消滅の危機 …実は中傷が原因…三重・尾鷲

産科医師との契約断念
尾鷲総合病院 市長記者会見で報告

サンプル 尾鷲総合病院の産婦人科医(55)の1年契約が8月末で切れることで尾鷲市は30日、医師と最終交渉の結果、「最終的に報酬額で折り合いがつかなかった」として9月以降の契約更新を断念した。
31日午前、伊藤允久市長と五嶋博道院長が緊急記者会見をして報告した。また、市長は「契約が更新できない場合でも最長で来年3月まで残ってくれる意向だったが、25日の市議会生活文教常任委員会で一部委員の発言に『これ以上は耐えられない』と精神的なショックで医師から1ヶ月が限度との話だった」と述べ、「10月以降も存続できるよう最低でも2人の医師確保に努力したい」と語った。産婦人科は9月末で医師がいなくなる。

医師9月末で退任へ 市長 次の医師確保に全力

 医師との契約交渉は30日夕から同病院で2時間以上に及び、市長と五嶋院長が同席。市長は4800万円に休日分の上乗せを提示、医師側はこの1年の報酬5520万円に休日分の上乗せを求めた。市長は28日の院内医師との懇談で「緊急避難的な5520万円はやむを得ない」との多数の意見や、産婦人科の存続を願う会の意見から最終的に5520万円を提示したが成立しなかった。
 市長は「医師も5520万円で許容してもらえるとの期待を込めて提示した。医師は報酬の条件よりも精神的な問題が強かった」と話し、五嶋院長も「1人で1年間よく頑張ってくれた。帝王切開も10例をこなし、院内の産婦人科体制にも取り組んできた。全国から医師にメールで厳しい意見が寄せられ、議会での評価も厳しい状況で精神的に耐えられない状況に追い込まれた。いったん休みたいということだった。私も医師の心身的な限界が感じられた」と話した。
 市長は記者会見で次のように報告した。
 産婦人科は昨年6月末に出産のできない状況に陥り、市民によって「産婦人科の存続を願う会」が設立され、署名活動などさまざまな市民活動で署名も6万3千人にのぼり、三重大や県に存続を訴えてきたが、残念ながら外来診察だけとなった。
 市としては署名の重みから何とか出産できる状況を確保しなければと独自に医師確保に向けて努力した。その結果、現在の医師に常駐してもらった。津市で開業していた医師が地域の実情を理解してくれて尾鷲に着任してもらった。緊急避難的なことからその身分は常駐医師とし、給料ではなく報酬として月額460万円、1年ごとの更新として従事してもらった。
 産婦人科の激務を1人で背負ってもらうことが非常に憂慮され、何とか2人目の医師を確保しなければと奔走したが、全国的な医師不足のあおりを受け確保ができなかった。
 このような状況で2年目の更新に向け、7月から出産数や診療状況、院内医師との格差も考慮して交渉を重ね、議会や産婦人科の存続を願う会、院内医師の意見も聞いてきたが、最終的に報酬額で折り合いがつかず、また医師自身の心身の疲労から契約の更新に至らなかった。2年目も就任を願っていたが8月末で更新しないこととなった。
 いずれにしても産婦人科の存続は欠くことのできないことであり、この地域に出産のできる状況を確保しなければならない。これまでにも増して三重大へお願いするとともに、全国へさまざまな発信で医師確保に向け最大限の努力をしていきたい。

議会発言にショック 
医師の心情「もう耐えられない」

再契約ができない場合でも、最長で来年3月までは残ってくれると市長の説明だったが、なぜ1ヶ月となったのか。
市長
21日に開かれた全員協議会での雰囲気を事務長が医師に報告した。その時点では医師も最長で来年3月までは残ってくれるとの話だった。30日の最終交渉では「精神的に耐えられない」との話で、9月末が限界ということだった。9月中に出産予定の13人は責任を持ってくれる。出産予定が10月にずれても受けてくれる。10月以降の出産予定は他病院への紹介となる。
延長分の報酬はどうなるのか。
市長
新たな契約となり、これまでの報酬から月額460万円を提示したが、医師側から時給との強い申し入れがあり、三重大に示している応援医師の時給7千円で受けてもらうことになる。
心情的に医師のプライドが傷つけられたのが契約できなかった大きな原因なのか。
市長
医師にとっては市民に理解されていることだと考えていた。25日の生活文教常任委員会で一部議員の発言に大きなショックを受けたとの話だった。
後任医師の見通しはあるのか。
市長
1カ月しかなく困難な状況で全力を挙げて医師確保に努力したい。休診となる可能性もあり、存続に努力したい。
具体的に次の医師の見込みはあるのか。
市長
何人かの医師と接触はしているが、具体的な交渉にまでは至っていない。どうなるかわからないが全力を挙げて次の医師を確保するのに努力したい。
1カ月後に存続の可能性はあるのか。
市長
最低でも2人の医師を確保しないと産科の存続は難しいと思う。この1年、1人でやってくれたのはまれだと思う。
一部議員の発言とは具体的にはどういうことなのか。
市長
1年間の仕事が否定されたことに強い憤りを感じている。精神的にこれ以上の勤務に耐えられず、最長で来年3月までとの意向だったが、1カ月が限界で事故も心配してそれ以上は勘弁してほしいとの話だった。
委員会での発言が原因なのか。
市長
市民に望まれて尾鷲に来たことがこの1年の心の支えだった。それが一部議員の発言で「これ以上は」と切れたとの説明だった。
五嶋院長
助産師と産科の体制も築いてきていた状況で、医師にもやりがいがあった。それ以上に心身的な支障を来たしている。
次は2人体制を考えているのか。
市長
現在の医師は異例であり、次は2人体制でないと再開できないと考えている。
市長は5520万円の高額報酬が全国的に一石を投じたと述べた。次の医師は待遇をどう考えているのか。
市長
緊急避難的に高額の待遇でも間違っていなかった。1人勤務は例外的。2人以上は必要で、北勢とは違ってへき地に来てもらうにはある程度の報酬はやむを得ないが、院内医師との格差も考えれば、それほどの高額は難しい。
五嶋院長
医師が28人から現在では18人に減り、年間24万人の患者を受け持っている。とにかく医師は全員頑張っている。この1年で産婦人科医師が152人の出産を受け持ったことは評価できるが、次は院内医師と同じような給与に近いかたちで来てくれればありがたい。
   
引用元:南海日日 9月1日(金)
 
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