「三千万なら大学病院の助教授が来る。報酬高すぎ」
 尾鷲市で産婦人科医消滅の危機 …実は中傷が原因…三重・尾鷲

後任医師の可能性示唆
全協で市長  産婦人科中旬めどに

  尾鷲市の伊藤允久市長は6日午後3時から開かれた市議会全員協議会で、尾鷲総合病院の産婦人科 医師(55)との契約交渉が「5520万円で折り合いが合わなかった」と不成立の結果を報告した上で、「医師は今月末まで。来月以降も産婦人科が継続できるよう医師確保に全力を挙げており、今月中旬をタイムリミットにめどをつけたい」と述べ、当面1人の後任医師確保で継続の可能性を示唆した。

 この日の全員協議会は議会の要望で、開会中の本会議一般質問終了後に急きょ開かれた。市長は報告の中で「医師自身の心身の疲労から契約の更新に至らなかった」とも述べた。
 全協では、議員から「5520万円の予算を認めた。市長に執行責任がある」、「契約できなかったのは行政と議会の責任だ」、「市長は金額の議論を議会に仕向けた」、「1年前の常任委員会で市長に報酬額を口止めした議会にも責任がある」、「記者会見の『議会発言で医師の気持ちが切れた』と市長の話は信用できない」、「こんな問題は市長室で内々に協議する話だ」、「報道陣をシャットアウトして議論すべきだ」−などと紛叫する場面も見られた。

枡田勇議員
いま必要なのは10月以降のことだ。10月に出産を控えた妊婦に不安が高まっている。不安を和らげる窓口の対応を取っているのか。
市長
医師は9月出産予定の人が10月にずれても責任を持ってくれるが、問題は10月から11月にかけて出産を予定している人たちだと思う。不安を与えていることには申し訳ない。後任の医師確保に努めており、医師と接触しているがまだ確実ではない。今月中旬までにはめどをつけたい。
枡田議員
10月早々に出産予定の人もいる。とにかく不安な状況に対処しなければならない。医師が確保できない場合を前提に妊婦のケアが行政の責務だ。
市長
そのためにも今月中旬が医師確保をはっきりさせるタイムリミットだと考えて努力している。
枡田議員
市長は記者会見で、医師との交渉が決裂したことの原因に議会での発言を挙げていた。私は医師と直接会って心情を聞いた。議会の発言には「ビクともしていない」と話していた。交渉が成立しなかったのは約束の土日の休みが保証されず、1年間頑張ってきたのに4800万円では納得できない。直前に5520万円の提示は遅かった。それに「3千万出せば助教授クラスが飛んで来るとの議会発言で、ここにいる必要がなくなった」とも話していた。
市長
枡田議員は医師とどういう話だったのかは知らないが、私は院長と2人で交渉した事実のままを記者会見で話した。議会や院内の医師、産婦人科を存続させる会の意見から現状の5520万円でやむを得ないと判断して交渉した結果、「妥協できない」というのが最終的な返事だった。
奥田尚佳議員
記者会見での記事で、私も市民から議会への強い抗議を受け、先輩議員を名指しでリコールという話も出た。市長は「5520万円で納得してもらえず、議会の発言で医師の気持ちが切れた」と記者会見で説明した。25日の委員会と全協で厳しい意見も出ていたが、全体としてはこの1年に敬意を払い配慮した発言だった。市長は交渉でそのことを医師にきっちりと伝えるべきではなかったのか。
市長
議会の状況は医師も地元紙を読んで知っている。最後まで医師の条件は変わらなかったが、それまでは交渉が成立しなくても3カ月から最長半年は残ってくれるという話だった。それが議会の発言で「精神的に1カ月が限界。そのあともし事故でもあれば市長が責任を取ってくれるのか」との話でやむを得なかった。
奥田議員
新聞ではカットされていた議員の思いや発言を伝えてほしかった。現状の5520万円で納得してくれた可能性もあったのではないのか。
市長
議会の状況は事務長が直接、医師に報告している。5520万円では最後まで妥協の意志がなかった。
奥田議員
市長の交渉には疑問が残る。それに記者会見で、最も困る妊婦に配慮する言葉もなかった。
市長
10月以降に出産を予定している妊婦に早く安心してもらうため、全力で医師確保に努めている。今月中旬まで報告を待ってほしい。
   

5520万円執行は市長責任
契約不成立 行政と議会五十歩百歩

真井紀夫議員
 枡田議員の話を聞いて少しはほっとした。医師に議会が誤解され、議会だけでなく尾鷲市の信用にもかかわってくる。こんな結果となって残念だが、市長はこのあとも責任を持つのか。3月に
5520万円の提案があり、財政が苦しい中で認めたのだから、市長はその執行に責任を持たなければならない。それが今回、交渉が難航していると全協に持ってきた。全協で出すことは相手の医師も含めてすべてさらしものとなり、後々の心配を指摘した。それが記事となり医師に誤解を招いた。5520万円をきっちり執行するのが市長の責任だ。
 新聞に「市長は医師から報酬額を明かさないようにと言われたが、公金だからと議会に明かそうとした。ところが議会が拒んだので明かさなかった。それがそもそもの出発点」と書かれている。私は昨年の9月議会に質疑を申し入れたが、その時に市当局から「やめてくれ。スタートに立ったばかり。そのうちにきっちりする」と言うことだった。
 12月の記者会見でも「医師との約束だから報酬額は言えない」とコメントしている。今年3月議会でもまた「やめてくれ」との話だった。「だめだ。市民に知ってもらって産婦人科問題を前向きにとらえないといけない」と言った。それで5520万円の予算を確保した。もっと責任を持って執行しないと市民や妊婦は気の毒だ。
市長
 事実だけを説明するので判断してもらいたい。私は院長と医師の3人での交渉事実を申し上げた。枡田議員が医師とどんな話をしたのか知らないが、私の話が信じられないのなら院長にも聞いてもらいたい。私は事実だけを報告している。
 医師の条件が5520万円なら全協には諮っていなかった。医師の条件は5520万円に休日分の上乗せだったので予算をオーバーする。私は4800万円を提示した。前回は5520万円だったが、そのもとになったのが手取り額の3800万円で、逆算すると5520万円となる。私は今回提示した4800万円にはそのあたりの根拠がある。その交渉で出発したが難航したため、私の一存ではいかない大きな問題なので、議会の意見も聞いて最終的に条件を提示するためだった。
真井議員
市長の責任転嫁だ。4800万円には根拠があるというが、それよりも執行する責任者の立場として5520万円の予算枠は政治判断ではない。病院の使命から医師と交渉すべきだった。だめなら次の医師を考えなければならない。全協に諮って政治判断の意見を求めること自体がおかしい。
中垣克朗議員
市長はよくやったと思う。5520万円は高額と見えるが、24時間の勤務で休みもなく3人分と考えれば1人1840万円だから安い。金額だけを議論するのもおかしい。次の医師との接触も聞いているが、まず10月からの産婦人科の継続を考えるべきだ。
市長
10月以降も産婦人科が継続できるよう全力を挙げている。中旬までには何らかの報告ができると思う。
津村衛議員
10月以降は市長に任せるしかない。私も記者会見の翌日に医師と会って話を聞いた。1年間の感謝と謝罪を兼ねて会った。住民からすれば行政も議会も五十歩百歩で同じように責任を負わなければならない。1年間事故もなく出産してきてその評価が4800万円で医師の心が遠のき、議会の発言で気持ちが切れた。この1年、正当な評価ができたのかを反省しないと医師はどうなるのか。それをしないで次の医師が来ても、このままでは市民としてもだめだと思う。
市長
医師には1年間、本当によくやってくれた。少しでも気分よく戻ってもらえるよう細心の注意を払いたい。
田中宜哉議員
1年前に6万3千人の署名があり、議会も市長と県や三重大に出向き、市民の願いから市長が医師を探し、議会も市民も出産ができるようになって喜んだ。5520万円の報酬には驚いたが、基本的には金額でなく医師を選任する人事案件だと思う。次の医師が中旬にはっきりするという市長の説明であり、議会もそのことを大事にすべきだ。
   

議会に金議論仕向けた  
医師の心情疑問 報酬額常任委口止め

浜口文生議員
 産婦人科に次の体制ができて一件落着すればこれまでの総括をしたいと思っている。医師が市長にどういうことを言ったのかは知らない。市長の口から聞くだけだ。いくら市長は「ありのままの話」と言っても、先ほどの枡田議員の話ではないが、医師が本当の心情を吐露したのかどうか、話を聞くだけでは的を得ていない。医師が記者会見で話したのなら信頼できるが、ちょっと違うのではないか。大筋の話は納得できない。
 25日の委員会で、私は発言の冒頭に「医師を値踏みするような議論を公開の場ではすべきでない」と申し上げた。市長は「4800万円で交渉したが折り合いがつかない」と言った。だから議会が高いか安いかの議論をせざるを得ない状況に追い込まれた。仕向けた市長の責任は重い。だから前から一貫して言っているように、市長室なりで内々に話をする問題だ。公開の場で1人の医師の高い安いを議論することが客観的に医師を傷つけることを知るべきだ。
 こんな問題を軽く出すことが無神経すぎる。3千万円の話にこだわっている人もいるそうだが、医師が尾鷲市に5千万円でも1億円でも要求するのは一向にかまわない。どれだけ要求しようが契約するのは尾鷲市だ。その金額が妥当かどうかを示すのは当然であり、市民の税金だ。契約金額が市民的にも院内の医師も納得できるものなら議会も「ご苦労さん」となる。自分の商売を断ち切って尾鷲に来てくれたことはありがたいが、少なくとも津で開業していた数年間の所得がどれだけだったのか。たとえば3千万円だったとすれば、それにいくらかの上積みをするという手法もある。
 市長の5520万円も4800万円もまったく根拠がない。4800万円は院内医師の同意が得られないので5千万円を切るという話があった。医師側は5520万円に休日分の上乗せを求め6千万円になる。びっくりする金額というのが本音だ。金額の話は表に出して議論することではない。市長室での下相談で議会の同意を得る協議をしてこなかった市長に責任がある。反論があるのか。
市長
 金額を表に出すことは私も望んでいない。医師に来てもらう直前の昨年8月、非公開の常任委員会で「市立の病院であり金額を言いましょうか」と申し上げた。しかし、委員の大勢が「言うな。必ずその話が一人歩きする」ということだった。私も医師との間で紳士協定があり、プライバシーの問題なので金額は公表しないようとの約束もあった。それでも金額を説明しようとしたが、委員会の総意は「言うな」だった。
 3月の新年度当初予算で報酬額が表に出たことはやむを得ないと思う。公立病院の予算審議で表に出ることはやむを得ない。5520万円は根拠のない額ではない。医師の条件は手取り額が3800万円であり、これで来てくれるのが医師の条件だった。来てもらうにはその条件をのむしかなかった。今回は最終場面で議会や市民に言わないと、どんな結果になろうとまた報酬額が一人歩きをしてしまうので提示額を公表した。
浜口議員
 3800万円の手取り額の根拠は何だ。根拠にもならない要求額は相手の数字だ。その根拠を質問するのは当たり前だ。尾鷲市は大金持ちなら別だが、28億円もの累積赤字を抱えている総合病院だ。産婦人科を絶対的に存続することは大事だが、そこには公共団体が経営する病院としてのシビアな判断がなければ、言いなりなら誰でも契約できる。
 6万3千人の署名簿が三重大に積まれた。本当に市長が今の医師を探してきたのだろうか疑問だ。市長はその後、2人や3人体制に最大限努力すると再三言っている。昨年7月から今月7月までの公務日程表を見ると、医師探しに歩いたのは2,3回しかない。三重大と東京には行っているが、和歌山医大には行ったのか。収入役が中央病院に行ったという話は聞いたが、真剣になって医師を探す努力はしていないように思う。
市長
 浜口議員と討論しても不毛だ。私はちゃんと医師を探してきた。電話でもできるし、私の代理で収入役が出向くこともある。一つの断面だけをとらえて指摘するのも結構だが、手取り3800万円をのむかのまないかで産婦人科ができるかできないかの選択をしただけだ。根拠はそこにある。私への批判は大いにやってもらって結構だ。その条件の中で選択をして1年前に来てもらった。それでどれだけ助かったか。妊産婦や家族を考えれば、浜口議員が何を言ってもそれだけの価値があったと思う。
   

非公開で議論すべき  密約認めた議会も責任

浜口議員
 私もさかのぼった議論はしたくない。市長は一部市民からも言われているが、「苦労しているのは私だけだ」と随所で言っている。議会も市長と三重大に出向いた。この医師を確保するための戦略を市長室でやろうと言ったが、一向に議会に振ってこなかった。三重大へ行くのになぜ議長や副議長を連れて行かないのか不思議だ。
 医師が来てくれて助かったことは感謝する。その側面だけを見て「これでよかった」とはならない。医師を探すのなら執行部も議会も総力を挙げる提起をするのが市長の役割だ。そういうことをせずに外では「議会は何も責任を取らない」などと言っている。正月も商工会議所の宴会で議会のことを批判したりすることは得意だが、もっと議会に率直に「こうやりたい。どうですか」とオープンではなく、市長室や会議室で内々に話をする努力をしない。
 二元代表制だ。市長は誰とどれだけの金額で契約をしても、議会が議決しないと契約は履行されない。議決機関の議会に相談するのが順当な執行機関の役割だ。市長が勝手に約束をしてきて議会に認めてくれでは法的にも適切ではない。
市長
 ある妊産婦が新聞のインタビューで答えていたが、政治問題化するべきでないと思う。10月以降、妊産婦の人たちにこれ以上不安感を与えないよう、こんな激論はしたくない。昨年も議会と三重大に何度も行き、厚生労働省にも行った。議会も一緒になって頑張ってもらったと思っている。
真井議員
 市長が医師との密約で決めてきたことはけしからんと思っていたが、昨年8月の常任委員会でそんな事実があったのなら議会にも責任がある。議会は11月で改選されて出直しはできるが、密約を認めるようなことを知らないまま3月まできた。そういう意味では市長に責任を押しつけるのではなく、議会も一緒になってやる必要がある。
村田幸隆議員
 市長だけに責任を押しつけているわけではないし、議会も何とかしなければとこの全協を開いたのではないのか。今回は今後どうしていくのかということだ。市長が10月のことを言っているのだから、市長だけに任せず、議員も公開の場でなく内々に集まって議論すべきだ。市長もどんどん提案してもらいたい。独りで抱え込んで最終的には「市長の責任だ」という議論になる。二元代表制を理解しているのなら市長も腹を割って話をすべきだ。報道をシャットアウトしてもう一度、機会をつくって議論すればどうか。
田中議員
 市は次の産婦人科医師をどうするかで苦労している。そこを重く受け止めないとまた同じ議論となり、逆の立場なら「もうよい」と言いたくなる。議員も心しなければならない。
浜口議員
 こういう議論は公開の場でやるべきではない。報道をシャットアウトして、議会が数人でチームを組んでどこかの病院へ行ってくれ、三重大へ市長、議長、常任委員長に行ってくれという提起をすべきだ。市長から提案は出てこない。
南靖久議長
 来週に市長と私と常任委員長が三重大に出向いて産婦人科問題で学長や産婦人科教授と会うことになっている。議会は基本的に公開であるべきで、市民に情報開示することが一番の使命だと思っている。しかし、病院問題は医師とのかかわりもあるので村田議員が提案しているように再度、非公式のかたちで協議の場を設け、議会と執行部、市民が一体となって10月以降の医師確保に向けて最大の努力をしていきたい。

2人体制での再開か 市長 当面は1人でも継続

村田議員
 議長と常任委員長が三重大に行くことは初めて聞いた。議会も一緒になってやっていくのなら当然議会にも相談があるべきだ。議長と委員長だけの問題ではない。議会で相談するのが筋だ。
南議長
 議会にはある程度相談したい。昨年、議会全員で三重大に行ったが、あとで三重大側に聞くと構えてしまって本来の話ができないということだった。2月に市長と三重大へ出向いたが、学長や教授と腹を割った話ができた。

村田議員

 行くことに問題はないが、その前に議会で会派の代表も加えて4〜5人で行くとか、1人でも多く行くような努力も必要だ。
南議長
 相手のあることなので執行部と考えていきたい。

大川道義議員

 市長は記者会見で「1人体制は異例。2人体制でないと再開できないと考えている」と答えている。1人確保しても再開しないということなのか。

市長

 今回は開業医だったので1人でやってもらったが、勤務医は通常2人以上の体制でやっている。開業医と勤務医とでは心構えもかなり違ってくる。これからは原則2人体制でないと休暇の問題もあり、長く継続させるためには休暇は避けて通れない。1人では長期的に難しい。次の医師が開業医か勤務医かによって変わるが、仮に開業医ならそのまま産婦人科を継続してもらってできるだけ早く2人体制にと考えている。緊急的には当面は1人でもやむを得ない。
 委員会や全協は原則公開だが、産婦人科の問題は医師のデリケートな問題もはらんでいる。議会の中でチームを組んでもらい、常に情報を共有しながら医師を確保していく態勢を取ってもらいたい。公開ではまずいこともあり、そこをどう担保するのか検討してほしい。情報がオープンになって医師に迷惑をかけないようにしたい。

枡田議員

 10月から医師が見つかるような話をしている。いまの医師はそのことを知らない。いまの医師と新たな医師が組める可能性も出てくる。

南議長

 いまの医師とは契約が決裂して本人も気持ちの糸が切れたということで、9月末までとの報告を受けた。

村田議員

 医師の気持ちが大前提になる。枡田議員はその確認を取っているのか。

枡田議員

 別のテーブルで2人体制で新たな道も開けてくるのではと思った。

市長

 医師との話は8月末で辞表が出て9月末までということが最終的な話となっている。

南議長

 いまの医師は1人体制では提示額でできないということだった。2人体制になれば医師も軌道修正ができるかとも思った。考えてみればどうか。

市長

 院長との話で、医師がいなくなったあとの体制を再構築することで医局とも足並みをそろえ、いま必死で医師を探している。新しい体制は三重大と相談しながらできれば2人体制にしたい。
   
引用元:南海日日 9月2日(土)
 
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